Scene.5 本屋はいつも危険な香り。
高円寺文庫センター物語⑤
「殿! 内山さんがテレビに出たって、凄いね!」
「うん、ママさん。しかも、ベストヴォーカル賞だよ! ロックな本屋を目指すには代えがたいスタッフだよ、もう最高! っていうか、スペシャル豚汁も旨いわ」
「りえちゃんも内山さんも食べたからね、殿はたっぷり食べて」
はい、毎度毎度お向かいのニューバーグはありがたいランチタイム。
「店長! また変な人が訪ねて来ましたよ」
りえ蔵に呼ばれてランチ途中で店に戻れば、「たま」の知久くんじゃないの! 確かに、おかっぱ頭にダブダブの七分パンツで下駄は、案山子にも見えるもんな。
「どんな本屋か、ちょっと寄ってみた」いつもの、モジモジ感。来てくれたんだ!
店長といえども、正式にはボクもバイト。所属は書泉労働者組合で、夜は週に2回ほど新聞輸送の夜中のバイトもしていた。そこで知り合ったのが、知久くん。
ゲゲゲの鬼太郎ばりに下駄で来るかって思っていたら、テレビの「イカ天」を観ていてビックリ!「たま」だったのかぁ~
「今日、人類が~さるぅ」SARU? 井上三太さんとも繋がるのか! って、冗談!
「文庫センターには、セクハラはないけどギャクハラばっかやね」
「りえ蔵さ、ギャグ抜きで今日はマジで早退すっから後を頼むな」
「ついにワープロの買い替えですか?」
「新宿のさくらやで買ってから、六本木で第三書館にお呼ばれなんだ。」
「あ! 新文化に連載してたのが本になったんでしょ、おごって!」
「いっやぁ、この業界って仲間内は現物支給あるんだよ」
「よ、店長! 見たぞ、雑誌『QA』。店長がいない時に、にいちゃんに聞いたけどさ。おめぇ、けっこうなワルじゃねえの(笑)」
「あ、木田さん。わ、酒臭いな!」
「ざかぁしぃや、このメモな。ほれ、仕入れとけよ」
あぁ~んもぉ! こっちゃシラフなのに、酔客にはまいる・・・・・
「店長、どうだ。その平凡社の『QA』名物店長のススメる一冊の他に、なんかあるか?」
「あります、あります! 祥伝社の『THE 霊柩車』は、小ぶりでも最高の写真集だと感動したんですよ。宮型霊柩車は日本が世界に冠たる、美術品だと」
「うるせ! おっめ、気持ちよく酔ってんのに霊柩車かよ?!」
「だって、最期に乗るクルマって普通よりイケてる方がよくないですか?!」
「じゃかぁしぃ~、ほかにないのか」
「じゃ、谷崎潤一郎全集はどうですか?
メジャーな作品より、小品や短編が多く読めて谷崎の神髄を覗けますよ」
「おう、谷崎は久しぶりにいいかもな。『刺青』はフェティシズムだし、『痴人の愛』や『春琴抄』はマゾだしなぁ~ほかに、なんかあんのか?」
「『小さな王国』が発見でしたね。あれ、木田さん! どちらへ?」
「わりい、眠くなったから帰るわ」
「店長、うまくかわしましたね。『ワル』ってなに言っていたのかしら」
「組合活動のことじゃないかな、酔って政治的なこととか絡まれたらたまんないよ」
「店長、店では政治と宗教の話しはNGって言っていますもんね」
「野球もけっこうヤバかよ(笑)」
「おはようございます!」「おはようございまぁす!」
「イェイ♪おっはよぉ~モニン!」
「店長! 店のまわりに積もった雪をどうすんですか」
「な、どうスノぉ~(笑)」